camp

批評家のスーザン・ソンタグSusan Sontagは、「キャンプについての覚書」(『反解
釈』1966 所収)で、キャンプを「不十分な深刻さ、経験の劇場化の感性」「感覚の
自然なあり方よりも、それを人工的に誇張するような感性」だといっている。

「高級文化」の倫理的な深刻さや格式、「前衛」のもつ葛藤への極限的な表現と区別
して、彼女は三つめの文化的な価値基準としてキャンプを位置づけている。世界への
徹底的に肯定的で審美的な態度でありながら、その態度を滑稽であると自認し、みず
からを面白がる皮肉な視線をともなった生き方、そのようなキャンプの感性は、自分
らの異質さをパフォーマンス化して、そうすることで逆に、現実や周囲の世界、社会
的な制度を異化していくことができる。

それはソンタグが、ゲイの美学や世界戦略を、60年代ポップカルチャー時代における
ダンディズムの可能性として評価したものであったが、今や、ポストモダン的な感性
としては一般化したともいえる。つまり、自己への再帰的な言及を欠かすことなく、
同時に自己のアイデンティティを、受け入れつつも、その生成それ自体を軽やかに問
題化していく感性である。

「キャンプ」な作家は、愛するものや表現しようとするものには誠実であるが、同時
に、「真面目さ」を窮屈だとして笑い飛ばしていく。それは、定住による登録と分類
を空間のポリティックスとする資本主義システムにあって、非定住のキャンプや仮設
テントによって自分自身を仮設のインスタレーションとして表現する「キャンパー」
にも通じる態度ではなかろうか。

参考文献

  • 松井みどり 2002 『アート:”藝術”が終わった後の”アート”』 朝日出版社
  • P・ブルッカー 2003 『文化理論用語集』 新曜社
  • 暮沢剛巳 2002 『現代美術を知るクリティカル・ワーズ』 フィルムアート社